日蓮聖人降誕800年
日蓮宗全国霊断師会連合会
よろこび法話 よろこび法話

#050
縦の糸と横の糸

愛知県名古屋市妙泉寺聖徒団団長
日蓮宗全国霊断師会連合会 研究局局長
石黒泰良

“なぜ めぐり逢うのかを私たちはなにも知らない
いつ めぐり逢うのかを私たちはいつも知らない…
縦の糸はあなた 横の糸は私 織りなす布は いつか誰かを暖めうるかもしれない”

中島みゆき 作詞・作曲『糸』より

私の大好きな楽曲の一つです。

私の自坊の近くに、代々日蓮宗の檀信徒(湖西市 本山妙立寺)でトヨタグループの創始者である豊田佐吉氏(一八六七―一九三〇)が住居していました。トヨタというと自動車を思い浮かべますが、その前身は織機の会社でした。佐吉氏が生まれ育ったのは今の静岡県湖西市、時代は幕末から明治初期の動乱期です。佐吉氏は小学校卒業の頃から、父の大工仕事を手伝うようになります。若き日の佐吉氏は好奇心旺盛で、母の機織り機を見て、「もう少し楽に効率良く織れないだろうか」と大工仕事の傍ら思案を重ねます。作っては壊し作っては壊しの連続でしたが、「世の中の役に立ちたい」との信念が佐吉氏を駆り立てます。ようやく出来上がった機織り機の改良を足がかりに、やがて自動織機の発明にまで至りました。晩年には長男の喜一郎氏に自動車の開発を託し、六十三歳の発明人生を終えました。

織り物で重要なのが縦糸です。縦の糸がきちんと張られていないと美しい模様にはなりませんし、なめらかな布にはなりません。

中島みゆきさんは縦の糸と横の糸を人間関係になぞられました。これを仏教で考えてみます。

縦の糸と横の糸

お経は「スートラ」というのが原語ですが、これは「縦糸」という意味です。一方、日々の生活におけるさまざま出来事や経験が横糸です。言い換えると、縦の糸は御本佛様やご先祖と私達の関係で、横の糸は夫婦関係や友人などの人間関係です。

私達の日常には嬉しいことや楽しいことは言うまでもなく、辛いこと、悲しいこと、苦しいこともそこに全部織り込まれて行きます。もちろん、嬉しいことや楽しいことはたくさんあって欲しい一方、できれば辛いことや悲しいことなど無いにこしたことはありません。けれども、人として成長するためには悲しみや苦しみを経験しなければなりません。

もし、あなたが夫婦関係で悩んでいたら…
 ご両親やご先祖様を粗末にしていませんか?

もし、あなたが親子関係で悩んでいたら…
 あなたの家庭のルールが乱れていませんか?

もし、あなたが友人関係で悩んでいたら…
 自分本位で考えていませんか?

もし、あなたが会社の経営で悩んでいたら…
 経営方針や理念が整っていますか?

縦の糸と横の糸

お手元のハンカチで試して見て下さい。横には延びますが、縦は伸び縮みせずしっかりとしています。人も同じで、人間関係は自分の思うようにはならず、時には自分の意とは反対の方向に行くこともあります。この時、縦の糸が乱れていると収まりません。しかし、縦さえしっかりしていれば、やがて元のように収まっていきます。

その縦の糸を整えるのが毎月の盛運祈願会です。御本尊様に向かいこの一ヶ月の自分を映し出してみましょう。夫婦で、家族で、毎月同じ思いで参詣することができたら、必ず縦の糸は整っていくでしょう。仏様の教えを鏡にして生きようとする事によって、私達は人生のどんな問題においてもそれを投げ出さずに受け止めていける勇気が頂けます。それでも思うように行かない時には九識霊断法の指導を仰ぎましょう。

私達は、皆様が幸せで心豊かに人生が送れるよう、いつもお祈りしています。

南無妙法蓮華経

※この記事は、教誌よろこび令和元年5月号に掲載された記事です。

イラスト 小川けんいち

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