日蓮聖人降誕800年
日蓮宗全国霊断師会連合会
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#062
正しく恐れ、光明を照らす

東京都感通寺聖徒団団長
教学・霊断法解説講師
新間正興

この度の新型コロナウイルス感染症に伴い、心を痛められているすべての方にお見舞い申し上げます。また、最前線にある医療従事者・ライフラインを維持するために、働いて下さっている全ての方々に、心より感謝申し上げます。

お釈迦様の言葉に「無知の者は恐怖し、有智の者は歓喜す」という言葉があります。新型コロナウイルスの影響により、子供たちの学校は休みとなり、株価は大暴落して、人々の生活に制限が課せられています。こういう状況の中で仏教においては、恐怖しないという境地に立った人が、仏教者・信仰者であると思われるかも知れませんが、決してそうではありません。恐怖を感じることも、恐怖を必要以上に感じないことも、両方が大切に捉えられています。

正しく恐れ、光明を照らす

ウイルスの世界的な流行の中で必要なことは、正しく恐れるということでしょう。ウイルスなんて俺には関係ない、まったく平気だよということではなく、必要以上に恐れてずっと不安ばかりになってしまうことも、望ましくありません。

このような状況の中では、心の中に貪・瞋・痴という三つのウイルス・猛毒(三毒)に、知らず知らずのうちに罹ってしまっています。

人は、悪いウイルスが体に侵入してくると、体の免疫機能によって健康を保ってくれます。ところが、今回のように社会的な混乱が起きている時には、私たちの元々持っている三毒というウイルスが表面化し易くなります。

貪というのは、必要以上の欲のことです。今回のコロナウイルスでは、マスクの転売が起こりました。マスク不足という、人々の弱みに付け込んで大儲けしようとする人がいました。また、自分だけは助かりたいという思いから、道徳観が無くなり、必要以上の買い占めが起こりました。瞋は怒りです。報道されていたように、順番待ちで殴り合いの喧嘩になっていました。痴とは愚かな心のことです。社会の混乱の時には、様々な憶測や情報が飛び交います。発信源は誰なのか、根拠はあるのか、情報の何が本当に正しいことなのか、冷静な判断と行動が必要です。それが三毒を克服するということです。

人が振り回す三毒というウイルスの恐ろしさは、歴史が証明しています。中世においてペストが流行した時代には、キリストを殺害したユダヤ人がペストを流行させたとの認識から、迫害と大量の殺戮が行われました。ウイルスによってではなく、人が人によって殺された歴史があります。インフラ・情報・交通網が整えられている現代社会では、必ず治療法は確立されるものです。それまでに私たちができることは、正しく恐れることです。

世の中がネガティブな情報に溢れているからこそ、バランスを取らなければなりません。世界中の人が感染拡大と戦い、医療従事者が一生懸命に治療してくれています。そんな中、私たちはその様なことは出来ないけれども、せめて自分から明るく振る舞いましょう。政府の対応が悪い、医療機関・保健所の対応が悪いなど愚痴をこぼすのではなく、コロナウイルスの危機から立ち直るために、私たち一人ひとりが役割を担っているのです。

妙法五字の光明にてらされて本有の尊形となる

日女御前御返事
正しく恐れ、光明を照らす

世界は私たち一人一人の個人の集まりでできています。それを政治なんて分からない、世の中に対して影響力なんてないと思ってしまいがちですが、そうではありません。せめて今日一日を明るく過ごして元気を取り戻そう、という姿勢が誰でもできる仏としての行いであり、仏さまの願いです。電灯は明るい時につけるものではなく、暗い時につけるものです。倶生神様の御守護を強くするには、暗い時こそ明るくすることです。不安なときは必ずお題目を唱え、自分のいる場所から少しずつでも、明るくしてください。今、私たちの在り方が試されています。

※この記事は、教誌よろこび令和2年7月号に掲載された記事です。

イラスト 小川けんいち

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