日蓮聖人降誕800年
日蓮宗全国霊断師会連合会
法華経のお話 法華経のお話

#072
無量義経の段その三十

大轉輪王小轉輪王。金輪銀輪諸轉輪王。(無量義経徳行品第一)

1.まあレプカに伝えてくれや。今から、そっち行くってな!
(ダイス船長)

波平さんばかりが取り沙汰される結果となった、永井一郎さん急逝のニュース。されど波平さんだけが永井一郎には非ず。もっとダイス船長、そしてジョドーのことも語られるべし。

そう、ダイス船長と言えば「未来少年コナン」、ジョドーと言ったら「ルパン三世カリオストロの城」の名キャラクター。

本名で呼び合う

どちらも昨年突然の引退宣言で世間を驚かした(一部では「またまた言ってる」とも囁かれている)、あの宮崎駿監督の初期代表作(前者は初テレビ作品、後者は初映画作品)なわけですが、その宮崎監督の作品中、最もヒットした作品(というか、国内における洋画邦画併せての興行収入第一位)と言えば、(残念ながら永井さんは出てませんが)もちろん二〇〇一年公開の「千と千尋の神隠し」ですね。

トンネルの向こうの不思議な町に迷い込んだ少女荻野千尋は、魔女湯婆婆(ゆばーば)によって両親を豚に変えられ、あまつさえ自身は魔女の経営する湯屋(銭湯)で下働きさせられることとなり・・・、という皆さんご存知の幻想譚なわけですが、この作品中で、重要な意味をもってくるのが、それこそ「名前」なんですね(ネタバレ赦したまえ)。

2.今からおまえの名前は千だ。いいかい、千だよ。
(湯婆婆)

まず千尋は魔女湯婆婆から名前を奪われた上に、「千」という名前に変えられることで、彼女に従属させられてしまいます。そんな彼女を影から助ける謎の少年ハクは、決して千尋という本名を忘れないようにと助言します。

なぜならそのハクもまた、湯婆婆に本名を奪われて、別の名に変えられた身の上。しかも本名を忘れてしまったハクは、湯婆婆の完全なる支配下に置かれ、命を削ってまでして、婆婆のために使役されていたのです。

いいようにこき使われ、衰弱していくハクを助けるため、千は奮闘します。その甲斐あって、ついにハクがその本来の名前「ニギハヤミコハクヌシ」[天孫降臨(てんそんこうりん)された「ニニギノミコト」‐神武天皇の曽祖父‐に先立ち、高天原から日本へ降臨されたという神様、「ニギハヤミノミコト」がモデルだそうですね]を思い出すことで、魔女の呪縛を断ち切り、神として再生するシーンこそが、いわばこの作品最大のクライマックスとなります。

そうです、実はこの映画は、名前とは人やモノを識別するための単なる目印や表札ではなく、その人、そのモノの本質を司るもの、名前こそが、その人やそのモノの存在そのものだという、東洋に伝わる古来の真理を教えてくれる作品だったんですね。

3.名前を恐れていると、そのもの自身に対する恐れも大きくなるのだよ 
(ダンブルドア)

ダンブルドア

名前はその人の本質そのものを司るが故に、ぞんざいに扱かわれることは、その人自身の本質がぞんざいに扱われることとなります。悪意を以って使用されると危険が及ぶことにもなりかねません。

だからこそ古の人々にとって、互いに本名を呼ぶことは厳重なるタブーだったのです。そこで、代わりとなる字や称号と言った仮の名で呼び合っていたんですね。

いわばギリシアのアキレスにとってのアキレス腱、ミケーネの戦闘獣にとっての人面部分のように、本当の名前こそが、私たちの弱点となるものだったわけです。

されど、私たち普通の人間とは異なるより強大なるもの、高次なる存在の名前の場合、それは弱点ではなく、逆に大いなる攻めの一手、必殺の呪文になっちゃう場合もあるのです・・・。

※この記事は、教誌よろこび平成26年3月号に掲載された記事です。

イラスト 小川けんいち

塩入幹丈

元霊断院主任

福岡県妙立寺前住職

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