大轉輪王小轉輪王。金輪銀輪諸轉輪王。(無量義経徳行品第一)
転輪聖王への遇し方を以て、佛様に遇すべし。
印度において佛法に取り入れられた王者の秘儀は、天台の教えの中で、再び王者への秘儀へと再転換されたと伝えられます。
その秘儀とは即位灌頂式。
法華経の八つの句からなる、四海領掌の偈、
「十方佛土中・唯有一乗法」・・・・・・・・・・・・(方便品第二)
「観一切法・空如実相」・・・・・・・・・・・・・・(安楽行品第十四)
「佛語実不虚・如医善方便」・・・・・・・・・・・・(如来寿量品第十六)
「慈眼視衆生・福聚海無量」・・・・・・・・・・・・(観世音菩薩普門品第二十五)
をベースとして成立したといいます。
この秘儀によって即位した王は、その権威を佛法、しかも法華経によって保障され、その権力は転輪聖王にも等しい、王の中の王となったといいます。この大いなる秘儀は、やがて真に必要とされるべき処、そう日本は皇室へと伝えられたというのです…。
用明天皇の御子聖徳太子と申せし人、びだつ二年二月十五日東に向て南無釋迦牟尼佛と唱て御舎利を御手より出し給て、同六年に法華経を読誦し給ふ。
中興入道消息
聖徳太子の世よりこの方、日本国は神仏習合こそが基本。
大曼荼羅御本尊様には、天照大神、八幡大菩薩が勧請(お祀り)されていることはご存じの通り。また日めくり過去帳でお馴染みの三十番神は、私たちお題目の信仰者を毎日交代でお守り下さる日本の神々のこと。
日蓮門下に限らず、日本人は今日神道のカテゴリーとされている日本の神々を、大菩薩、大明神、大権現等とお呼びし、佛教の神様佛様として信仰してきたのです。日本国の下万人(しもばんみん)がみなそうなら、上一人(かみいちにん)もまた同様。
たとえば現代の皇室では、新年に五穀豊穣と国民の安全が御祈念されますが、平安時代には宮中に集められた僧侶たちの金光明経の読誦によって、この新年のご祈念が行われました。
また春秋のお彼岸には、どこのお寺でもご先祖供養が行われるものですが、その始まりはやはり平安時代の皇室での、般若経読誦による慰霊祭から。
その他、宮中での様々な儀礼も皆、神道と佛教のハイブリットされたもの。
今や神道の総本山と思われている皇室も、元々は篤く佛教を信仰していたのです。
だからこそ、明治以前の天皇は崩御(お亡くなりになること)されたならば、荼毘(火葬)に付されてきたのです。
火葬こそはお釈迦様以来の佛教の伝統。
しかもこれは、本来転輪聖王の葬送の仕方に倣ったもの。
いわば印度の王者の儀礼が、佛教を通して、ここ日本の王者の儀礼となったといえましょう。
そして先帝が崩御すれば、当然皇子が即位の式を挙げるもの。佛教徒たる皇室が、佛教の儀礼を以て即位することも、又至極当然なることだったんですね…。
イラスト 小川けんいち
元霊断院主任
福岡県妙立寺前住職