日蓮聖人降誕800年
日蓮宗全国霊断師会連合会
法華経のお話 法華経のお話

#053
無量義経の段その十三
(二)

今日から王様

大轉輪王小轉輪王。金輪銀輪諸轉輪王。(無量義経徳行品第一)

「四海領掌の偈」が書きこまれた菊の葉より、日毎に滴たる朝露。

その露が流れ込んだ川の水は、やがてこの世のものとも思えぬ甘き甘露の水となっていたといわれています。

周の世の美少年菊慈童が、千年の時を超えて若く美しい姿を保ちながら生き続けた不思議も、全てはこの甘露の水を飲み続けていたおかげ。

その身をもって「四海領掌の偈」の神秘を証明した菊慈童から、魏の文帝に伝えられたという「四海領掌の偈」。

代々の魏皇帝に伝承されたこの秘伝の教えは、やがて一人の高僧に受け継がれたと伝えられます。

その方こそは、あの天台大師の師、観音菩薩の再誕とも、聖徳太子の前世とも謳われし、南岳大師その人なのです。

夫佛法と申は勝負をさきとし、王法と申は賞罰を本とせり。故に佛をば世雄と号し、王をば自在となづけたり。

四條金吾殿御返事
今日から王様

さてさて、菊慈童を中継することで、千年の時を超えて伝えられた四海領掌の偈は、南岳大師から天台の教えに組み込まれて以降、更なる進化を遂げたと伝えられます。

それこそが、偉大なる王者の即位のための秘儀、即位灌頂(そくいかんじょう)です。

同様に天台大師の師匠である南岳大師は観世音菩薩の再来であり、その南岳大師の生まれ変わりこそが、日本佛教の元祖たる聖徳太子だったといいます。

もとより俗世の頂点たる転輪聖王と、聖なる世界の頂点たる佛様とは表裏一体。

皆さんもお寺の花まつりで、誕生佛様に甘茶を灌いでご供養されたことはおありでしょう。

これはお釈迦様のご降誕(お生まれになること)の際、八大竜王が甘露の水を灌いで、産湯の供養としたという故事に習うもの。

ですがしかし、この水を灌ぐという行為とは、実は転輪聖王の即位の際、王の頭に海水を灌ぐ秘儀(頭の頂に水を灌ぐ=灌頂式)に由来するものなのです。

転輪聖王への遇し方を以て、佛様に遇したわけです(故にお釈迦様はご入滅=お亡くなりになること=の際、葬儀等のやり方は転輪聖王の葬儀に倣うべしとご遺言されたといいます)。

いわば即位灌頂とは、佛法に取り入れられた王者の秘儀を、再び王者への秘儀へと再転換したものといえます。

この秘儀によって即位した王は、その権威を佛法、しかも最高の教えである法華経によって保障され、しかもその権力は転輪聖王にも等しい、王の中の王となるわけです。

やがてこの大いなる秘儀は、真に必要とされる方々のもとへと伝えられたといいます…。

それこそは日本の皇室。そうです、かつて多くの天皇は、即位灌頂を行い、法華経を唱えることで、皇位を継承していったのです…。

イラスト 小川けんいち

塩入幹丈

元霊断院主任

福岡県妙立寺前住職

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